特定技能外国人雇用:受入れ企業への罰則「不法就労助長罪」

特定技能外国人雇用:受入れ企業への罰則「不法就労助長罪」

2022年7月1日

こんにちは。特定技能を専門とする行政書士の長井です。
今回も特定技能制度について、ご理解が進むよう簡潔に解説していきますので、最後までご一読いただけましたら幸いです。

特定技能外国人雇用する受入れ企業への罰則を解説

今回は「受入企業側の罰則」に焦点を当ててお伝えしていきます。

通常、「外国人の不法就労」というフレーズは、外国人本人の違法な就労行為を指します。しかし、不法就労助長罪は、不法に就労している外国人を雇用する企業に対して適用される罰則です。

特に、特定技能外国人の受入れにおいては、企業側に多くの制限と責任が課されています。これから特定技能外国人を雇用しようと考えている企業や、すでに雇用している企業は、この罰則を理解し、適切な対策と法令遵守を徹底することが非常に重要です。この記事では、特定技能における不法就労助長罪に焦点を当てて解説します。企業は、この点に特に注意し、遵法的な運営を心がけるべきです。

不法就労助長罪

1、不法就労助長罪とは

不法就労助長罪は、入国管理法第73条の2第1項1号に基づいています。この法律は、事業活動の中で外国人を不法に就労させた者、または不法就労をさせるために外国人を自己の支配下に置いた者を処罰の対象としています。この罪に問われた場合、最大で3年以下の懲役または300万円以下の罰金が科されることになります。

この法律は、企業が意図的に、または過失により不法就労を助長しないようにという厳しい規制を設けています。特に特定技能ビザを持つ外国人労働者を雇用している企業は、適正なビザの管理と労働条件の遵守が求められます。従って、企業は自社の採用プロセスと労働者のビザ状況を常に適切に管理し、法令遵守に努める必要があります。

2、特定技能での不法就労助長罪

不法就労助長罪については、確かに「意図的に悪いことをした」というイメージがありますが、特定技能のケースでは、知らず知らずのうちに違反することがしばしばあります。これは、企業側が外国人労働者のビザや在留資格の状況に十分注意を払っていないために起こることが多いです。

例えば、外国人労働者がオーバーステイ(在留期間切れ)の状態で働いている場合、これは明確に不法就労と見なされます。しかし、企業がその労働者のビザ状況を確認せずに雇用を続けてしまった場合、企業も不法就労助長罪の対象となる可能性があります。

さらに、労働者が持つ特定技能ビザの条件に不適合な仕事をさせている場合も問題となります。例えば、特定技能ビザで許可されている業務範囲外の仕事をしていた場合、これも不法就労助長罪に問われることがあります。

企業は、外国人労働者のビザの種類とその条件を正確に理解し、遵守することが非常に重要です。また、定期的にビザの有効期間や条件を確認し、適切な管理を行う必要があります。これにより、不意の法令違反を防ぐことができます。

3、具体的例

①受入機関適合要件を満たしていない

特定技能外国人を雇用する場合、受入れる企業側の基準(要件)があります。これは、各業種によって異なる部分もありますが、ここでは共通する要件を解説します。

①租税の滞納がある状態で雇用し続けている
②労働災害保険や雇用保険に加入しない状態で雇用し続けている
③労働法規で定められている就労時間を越えて働かせている
④社内規定でアルバイトを認めているため、雇用する特定技能外国人にもアルバイトの許可を出した。
⑤無資格で業務に従事させている(例えば、無免許でフォークリフトに乗せて働かせている)

「労働に関する法令」(労働契約法/最低賃金法/労働安全衛生法/労働施策総合推進法/パートタイム・有期雇用法/男女共同参画/育児介護休業法/職業安定法/労働者派遣法/船員職業安定法)
特定技能外国人の受入機関が、このような労働法令全般を一つでも遵守していない状態で特定技能外国人を雇用し、就労させている場合は、受入機関適合性を満たさず在留資格該当性がない以上、不法就労助長罪が成立します。

②業務区分適合要件の不一致

特定技能外国人を雇用する場合、職種(例えば介護業など)はもちろんのこと、特定技能外国人に従事させる仕事内容(これを業務区分適合性といいます)が、細かく決められています。

例えば介護分野では、施設介護は良いが訪問介護はNGであったり、飲食料品製造業分野では、スーパーマーケットのプロセスセンターでの弁当や総菜の製造は良くても、スーパーマーケット内にあるバックヤードで、弁当や惣菜を作ることはNGとなっており、このような状況で働かせると不法就労助長罪が成立します。

③支援計画の不履行

特定技能外国人を雇用する際に、必ず必要となるのが「支援計画」です。これは特定技能外国人が活動を安定的かつ円滑に行うことができるようにするための職業生活上、日常生活上、社会生活上の支援実施に関する計画のことです。

事前ガイダンス(雇用契約に関する説明を母国語にて行う)
出入国する際の送迎(空港までの送り迎え)
住居確保や生活に必要な契約に係る支援(賃貸契約やスマホ・ライフラインの契約補助)
生活オリエンテーション(日本においての社会的ルール等の説明)
公的手続等への同行(市役所での住民登録等)
日本語学習の機会の提供(日本語学校や各種試験等の情報提供)
相談・苦情への対応(社会生活あるいは就業先でのトラブルや悩みに関する相談対応)
日本人との交流促進(地域で開催されるイベント等を案内)
転職支援(非自発的離職の場合)
定期的な面談・行政機関への通報(3ヵ月に1度対面にて面談。雇用契約に違反があった場合通報)
特定技能1号外国人を雇用する上での支援業務一覧

支援の実施がなされない状態で就労させると

特定技能外国人→在留資格該当性がない状態での不法就労

受入企業→不法就労助長罪

が成立します。

4、これも不法就労助長罪

・就業規則でアルバイトを認めていたので特定技能外国人にも許可した
・通訳を同席なしで定期面談を行った
・サービス残業をさせている
・在留期間更新をしないで雇用している
・非自発的離職者(会社都合の解雇)を発生させた

5、知らなかったでは済まされない

条文(不法就労助長罪)
「第七十三条の二 次の各号のいずれかに該当する者は、三年以下の懲役若しくは三百万円以下の罰金に処し、又はこれを併科する。
一 事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた者
二 外国人に不法就労活動をさせるためにこれを自己の支配下に置いた者
三 業として、外国人に不法就労活動をさせる行為又は前号の行為に関しあっせんした者
2 前項各号に該当する行為をした者は、次の各号のいずれかに該当することを知らないことを理由として、同項の規定による処罰を免れることができない。ただし、過失のないときは、この限りでない。
一 当該外国人の活動が当該外国人の在留資格に応じた活動に属しない収入を伴う事業を運営する活動又は報酬を受ける活動であること。
二 当該外国人が当該外国人の活動を行うに当たり第十九条第二項の許可を受けていないこと。
三 当該外国人が第七十条第一項第一号、第二号、第三号から第三号の三まで、第五号、第七 号から第七号の三まで又は第八号の二から第八号の四までに掲げる者であること。」

その法律知らなかった→処罰の対象

特定技能外国人が会社に内緒でバイトしていた→過失なければ処罰を免れる

※直接雇用だけでなく、派遣形態であることを理由に処罰を免れません。
※「過失」とは、確認にあたって尽くすべき手段を全て尽くさなかったこと。

6、罰則(受入企業)

特定技能外国人を雇用する中、入管法に違反し不法就労助長罪の処罰を受けた場合には

5年間は特定技能の外国人の受入れが不可となります

3年以下の懲役又は300万円以下の罰金

またはこれを併科

入管法違反は、外国人本人の法的制裁はもとより、外国人を雇用している企業の法的制裁に加え、企業イメージの失墜など、社会的制裁も受ける可能性があります。十分に留意しなければなりません。

7、罰則(特定技能1号外国人)

特定技能外国人が適切な環境で就労していない場合、それが外国人自身の選択でなく企業や支援機関の義務不履行によるものであれば、その外国人も不法就労の状態に置かれる可能性があります。特定技能ビザを持つ外国人は、基本的に資格外活動(例えばアルバイトなど)が許可されていないため、これを無許可で行うことは違法です。

不法就労の法的責任

不法就労に対する罰則は厳しく、外国人労働者が不法就労の状態にある場合、以下のような刑罰が科されることがあります:

  • 1年以下の懲役または禁錮
  • 200万円以下の罰金
  • 上記の両方を併科(併せて科される)

企業の責任と対策

この問題は、外国人労働者だけでなく、雇用している企業や支援を提供する機関にも重大な影響を及ぼします。企業や支援機関は、外国人労働者が適切な環境で就労できるよう、以下のような対策を講じるべきです:

  1. 労働条件の透明性: 労働条件を明確にし、外国人労働者が理解できる言語で提供する。
  2. ビザの条件の厳守: 外国人労働者がビザの条件に従って働けるよう、業務内容の適合性を常に確認する。
  3. 定期的な監査: 労働環境やビザの状況を定期的に監査し、問題が発見された場合は速やかに対応する。

企業がこれらの基本的な義務を怠ると、外国人労働者にとって不利な状況が生じるだけでなく、企業自身も法的な責任を問われることになります。したがって、特定技能外国人の雇用にあたっては、法令遵守と適切な支援の提供が極めて重要です。

まとめ

技能実習制度や特定技能制度は、受け入れ機関(雇用する企業)に対して重要な責任と義務を課しています。これらの制度は、日本の人手不足を解消するために外国人労働者を導入するという背景がありますが、単に労働力としてではなく、彼らを尊重し、公正な扱いを保証する目的も含まれています。

企業の責任と義務

  1. 法令の遵守: 企業は、入国管理法(入管法)を含む関連法令を正確に理解し、これを遵守することが求められます。これには労働基準法や労働安全衛生法も含まれ、外国人労働者に対する適切な労働条件の提供が必須です。
  2. サポート体制の整備: 特定技能労働者に対する言語的、文化的、社会的なサポートを提供することも企業の責任です。これには適切な住居の提供、日常生活の支援、緊急時の対応計画の準備などが含まれます。
  3. 教育と研修の提供: 労働者のスキル向上とキャリア発展を支援するための継続的な教育と研修を提供することも重要です。これにより、労働者がより生産的で満足のいく職場環境を経験することができます。

効果的な遵守のための戦略

  • 定期的な法律研修: 企業は定期的に法律研修を行い、従業員が最新の法律変更に対応できるようにすべきです。
  • 透明性の確保: 労働者とのコミュニケーションを開かれたものにし、労働条件や権利について透明性を持たせることが重要です。
  • 適切な監督体制: 外国人労働者の労働条件や生活状況を定期的に監視し、問題が発生した際には迅速に対応する体制を整える。

これらの取り組みを通じて、特定技能外国人労働者を尊重し、その権利を保護することが企業には求められています。これは単に法的な義務を果たすこと以上に、文化的多様性と相互理解を促進し、より良い労働環境を構築するためにも不可欠です。