特定技能トラック運送業:横乗り期間での5つの問題点│特定技能×運送業│解説ブログ(自動車運送業分野)

特定技能トラック運送業:横乗り期間での5つの問題点│特定技能×運送業│解説ブログ(自動車運送業分野)

2024年5月6日

記事内容:特定技能1号外国人をトラックドライバーとして雇用する過程の「横乗り期間」(教育期間)における5つの問題点(言語・態度・荷作業・運転・荷下ろし先)に焦点をあてて投稿した記事となります。


こんにちは。トラックドライバー歴18年(運行管理者資格保有)で、現在は特定技能を専門とする行政書士の長井です。
今回も特定技能(トラック運送業)の制度について、ご理解が進むよう簡潔に解説していきますので、最後までご一読いただけましたら幸いです。

私自身も長きにわたってトラックドライバーの職に就いていたため、他の運送会社への転職経験もあることから、実体験に特定技能1号外国人を当てはめて解説していきます。

教育の現状

運送会社での教育は、先輩に同乗して仕事を習う、いわゆる「横乗り」が主な教育になるかと思います。私自身も転職した先では同じような教育を受ける一方で、新人が入社すれば私のトラックに横乗りしてくることもありました。

いずれにせよ、1日中見知らぬ人と車内という密室で時間を共有するため、相性の良い人であれば問題ないのですが、双方が歩み寄れなかったり、コミュニケーション能力が低い場合には、正直この期間は苦痛の毎日となります。

日本人同士でもこのような感情を抱くため、日本人と外国人という横乗り状況を考えると、様々な問題点が予想されます。

予想される5つの問題点

その1:言語

特定技能1号の外国人労働者の日本語能力は個々によって異なります。日本語学校を卒業した外国人であれば、基本的な日本語は理解可能です。また、以前に異なる在留資格で日本で生活・就労した経験のある外国人は、日常会話がスムーズにできるレベルにあります。

しかし、初めて日本に来た外国人で日本語能力試験N4レベル(特定技能1号の最低基準)の場合、基本的な挨拶ができる程度というケースもあります。

横乗り期間中には、先輩ドライバーとの様々な会話が発生します。自己紹介から始まり、会社や同僚のこと、担当するコースの業務、会社の規則、荷下ろし先の情報、さらには雑談に至るまで、幅広いトピックが含まれます。

日本人同士でさえコミュニケーションが困難な状況がある中で、言語の壁が存在すると、特定技能1号の外国人労働者も日本人の先輩ドライバーも、この期間を乗り越えることが一層困難になる可能性があります。このため、相互理解と適切なサポートが重要となります。

その2:態度

弊所では特定技能をはじめ、様々な在留資格の申請を取り扱っており、日々多くの外国人クライアントと接しています。この仕事を通じて、さまざまな国の文化や性格を理解するようになりましたが、初めの頃は依頼者の態度や対応にイライラすることもありました。

日本で長く暮らしている外国人の場合、多くは日本の社会的常識に馴染んでおり、態度に問題は生じにくいです。しかし、そうでない場合、社内の同僚、荷主、荷下ろし先といった関係者から、態度が不適切であるとの指摘を受けることがあり得ます。これに対しては、相互理解と適切なコミュニケーションが求められます。

その3:荷作業

運送業務は多岐にわたります。個人宅への配達、工場への納品、拠点間輸送、ルート配送、幹線輸送など、業務の範囲が広いため、一つ一つを詳しく説明するのは難しいことです。そのため、ここでは基本的な荷作業に焦点を当てて解説します。

トラックドライバーとして新たに入社する日本人であっても、積荷の確認、パレットへの移動、ラップでの梱包、荷台への積み込みなどの一般的な荷作業経験がないことは珍しくありません。特定技能1号の外国人労働者も同様です。ただし、問題となるのはやはり言語の壁です。運送業界特有の専門用語を覚えることはもちろん、先輩ドライバーからの教育や指導を正しく理解するには時間が必要です。そのため、教える側のコミュニケーション方法が非常に重要になります。

その4:運転

新人ドライバーが初めてトラックを運転することは日本人でも珍しくないため、外国人ドライバーとの間に大きな違いはありません。研修期間中は先輩ドライバーが常に助手席に同乗しているため、この点については安心です。しかし、いくつか注意すべき点があります。

まず、日本と他国の交通インフラの違いです。私は2023年にネパールを訪れた際、首都カトマンズの市街地に信号がほとんどなく、横断歩道もない状況で、車(60km/hで走行している)の往来が激しい中、道路を渡るのは非常に危険で、ガイドなしでは横断できなかった経験があります。

日本の運送会社では交通安全意識が高く、従業員は徹底した安全教育を受けています。出発前の点呼、デジタルタコグラフ(デジタコ)による運行管理、速度抑制装置(リミッター)など、安全管理が厳格に行われています。特定技能1号の外国人労働者にも、まずは安全に対する意識改革が必要です。

次に、緊急時の対応です。例えば、先輩ドライバーが「歩行者いるぞ!巻き込むぞ!」と強い口調で警告した場合、日本語が完全に理解できない外国人ドライバーはパニックになる可能性があります。こうした緊急事態には「危ない!止まれ!」といったシンプルな日本語での指示が効果的です。横乗り期間中には、こうした基本的な指示の言葉を共有しておくことが重要です。

その5:荷下ろし先

運送会社や積荷によって、荷下ろし先は多様であり、それぞれの場所に応じたルールや対応が求められます。例えば、自動車部品を扱う工場では、「トラックから油一滴も落とすな」といった厳格な指示のもと、制限時間内に荷下ろしを完了することが求められ、常に緊張感のある環境です。一方で、小規模の問屋では、時間的な余裕があることも多く、担当者との世間話が交わされることもあります。

このように異なる雰囲気の荷下ろし先で共通するのは、外国人ドライバーに対する接し方が課題となることです。トラック運送業には技能実習制度が導入されておらず、トラックドライバーとしての在留資格を持つ外国人(定住者や永住者のみ)が少なかったため、荷下ろし先からは「外国人で大丈夫か?」という疑問が持たれることがあり、場合によっては「日本人ドライバーに交代してほしい」という要望が出ることも考えられます。

このような状況においては、先輩ドライバーが、まずは特定技能1号の外国人ドライバーを適切に紹介し、その技能レベルについて明確に説明することが重要です。さらに、管理職が人手不足の背景を説明することで、荷下ろし先の理解を促し、協力を得ることも効果的とされます。これらの対応によって、外国人ドライバーがスムーズに業務を行える環境を整えることが求められます。

5つの解決策

その1:担当教育者の適切な選任

新人ドライバーの入社と横乗り研修は、確かにストレスの原因となることがあります。特に、初めて会ったばかりの人と長時間密室で過ごすのは、どちらにとっても挑戦です。フィーリングが合えば問題は少ないかもしれませんが、そうでない場合には相互の緊張や不快感が生じる可能性が高いです。

特定技能1号外国人ドライバーの場合、言語の壁が加わるため、通常の新人研修よりもさらに高いストレスが予想されます。彼らと一緒に横乗りを行う先輩ドライバー選びは非常に重要です。選任される先輩ドライバーには、ただ運転技術が高いだけでなく、コミュニケーション能力が高く、忍耐力があり、異文化理解に富んだ人材が求められます。

「選任基準の例」
・教育に慣れたドライバーを選任する
・コミュニケーション能力があるドライバーを選任する
・10日間隔でドライバーを交代する
・外国人にもヒアリングしてみる

その2:翻訳アプリを活用する

特定技能1号外国人は日本語評価試験でN4以上を取得しています。しかしながら単純作業とは言えないトラック運送業という業種において、N4以上では通用しない場面も多々想定できます。そこで、先輩ドライバーとの言語の障害を解決するために翻訳アプリの利用をお勧めします。

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この通訳アプリは制度がよいため、私も業務で使用しています。

その3:管理職による積極的な介入

特定技能1号外国人の雇用には、事前の準備に多くの時間、経費、および労力が必要です。特に横乗り期間中に退職してしまうと、これらの投資が無駄になってしまうため、この期間は日本人新人ドライバーよりもさらに細心の注意を払ってサポートする必要があります。現状、多くの運送会社では先輩ドライバーからの状況報告のみを求めることが一般的ですが、それ以上に特定技能1号外国人との面談を増やし、彼らが直面している課題や不安を把握し、適切な支援を提供することが重要です。

さらに、横乗り期間の終了判断を先輩ドライバーに任せるのではなく、管理職が直接同乗して評価することが望ましいです。これにより、より公平で正確な評価が可能となり、特定技能1号外国人が業務に必要なスキルと態度を適切に身につけているかを確認できます。このような積極的な関与とサポートにより、外国人ドライバーの雇用成功率を高め、彼らが安定して業務に就けるようにすることが重要です。

その4:他の業務の選択肢を用意しておく

日本人でも新人ドライバーの横乗り期間には問題やトラブルが発生することも少なくないでしょう。トラックの大きさの問題、体力の問題、各現場でのコミュニケーションがうまくいかない問題などがあります。

私自身、長年運送会社で勤務してきた経験から、新人が入社する際には、しばしば前任者の退職に伴いコースが既に決定しているため、横乗り期間中にコースの選択肢を持てないという問題があります。

この問題は特定技能1号外国人の雇用に限らず、全ての新人ドライバーに共通しています。解決策としては、単にその人材が特定のコースで働けないからといって「使えない」と判断するのではなく、他のコースや異なる業務に配置できないかを検討することが必要です。人手不足を解消するためには、柔軟な思考と創造的な人材配置がカギとなります。

人材を有効活用することで、新人ドライバーが一つのコースに限定されず、様々な業務で経験を積むことが可能になります。また、これにより従業員のスキル向上と職場の多様性が促進され、運送業界全体の効率と生産性の向上に寄与することが期待されます。

その5:関係者への理解を求める

トラックドライバーの日常業務には、教育担当の先輩ドライバー、積込み先や荷下ろし先の事務担当者、現場のリフトマン、指定給油所のスタッフに至るまで、様々な担当者との関わりが必要です。外国人労働者がまだ少ない運送業界では、多くの担当者が業務上初めて外国人と関わるといっても過言ではないでしょう。

このような状況では、初期段階での関係者への丁寧な説明と理解を求めることが極めて重要です。これは一見面倒で無駄に思えるかもしれませんが、実は特定技能1号の外国人ドライバーにとっても、よりスムーズな教育期間となるための必要なステップです。適切な説明を行うことで、横乗り期間を無事に終え、一人立ちへのスムーズな移行が可能となります。

このようなコミュニケーションの取り組みは、外国人ドライバーが新しい環境に順応し、貢献するための土台を築くことにも寄与します。したがって、関係者全員がこのプロセスの重要性を理解し、積極的に取り組むことが望まれます。

まとめ

いかがでしたでしょうか。今回のブログでは、私のトラックドライバー時代の経験を振り返りつつ、特定技能1号外国人の横乗り期間に焦点を当て、私なりの意見を交えてお話ししました。

現実的な問題として、トラック運送業界は深刻な人手不足に直面しています。そこで、「使えるかどうか」ではなく、「使わなければならない」という状況が生まれています。このような状況の中で導入された特定技能1号の制度は、まず業界全体が人手不足の現実を認識し、外国人労働者を支援する姿勢を持つことが求められています。

特に重要なのが、今回取り上げた「横乗り期間」です。この期間中、担当する先輩ドライバーだけでなく、日本人社員全員が温かい目で新たな仲間を見守り、早期の独り立ちをサポートすることが必要です。この支援が、彼らが業務に適応しやすくなる重要な要素となります。

ここまでお読みいただき、誠にありがとうございました。長年トラックドライバーとして勤務した経験を生かし、今後は行政書士としても、このブログを通じて有益な情報をお届けしていきたいと思います。