外国人ドライバーの受入れを進める運送事業者からは、雇用条件や労務管理に関する相談が数多く寄せられています。なかでも特に多いのが、「外国人材にも試用期間を設けることができるのか」という質問です。
日本人労働者では一般的な試用期間ですが、特定技能や育成就労といった在留資格制度の下では、制度の趣旨や実務上の制約を踏まえた判断が求められます。ここでは、自動車運送業分野における外国人雇用を前提に、試用期間の考え方を整理します。
目次
特定技能1号における試用期間の取扱い
特定技能1号については、試用期間を設けること自体は禁止されていません。実務上も、雇用契約書や労働条件通知書に試用期間を明記したうえで、一定期間を設けて運用している事業者は存在します。
もっとも、試用期間中であっても労働契約はすでに成立しています。試用期間とは、「労働契約が未成立の状態」ではなく、「解約権が留保された労働契約」にすぎません。この点を誤解した運用は、労務トラブルの原因となります。
例えば、次のような考え方は誤りです。
- 試用期間中は労働基準法が適用されない
- 試用期間中であれば自由に解雇できる
- 試用期間中は日本人より不利な条件でも問題ない
試用期間中であっても、労働基準法や最低賃金法などの労働関係法令は全面的に適用されます。また、特定技能制度では日本人労働者との均等待遇が求められているため、賃金や労働条件についても合理的な差別は認められません。
試用期間中の解雇に関する注意点
試用期間中であっても、解雇が無条件に認められるわけではありません。能力不足や適性の欠如を理由として解雇を検討する場合でも、客観的かつ合理的な理由があり、社会通念上相当といえるかどうかが厳しく判断されます。
特に外国人ドライバーの場合、言語や文化の違い、日本の交通事情や業務ルールへの理解不足など、短期間では評価しきれない要素も少なくありません。こうした事情を十分に考慮せず、「試用期間だから」という理由だけで雇用契約を終了させると、不当解雇として紛争に発展するリスクがあります。
育成就労における試用期間の考え方
育成就労については、試用期間の可否を明確に定めた公的な規定は現時点では確認されていません。育成就労制度は、3年間を通じて計画的に技能を習得させることを前提とした制度であり、短期間で適否を判断することを想定したものではありません。
この制度趣旨を踏まえると、採用直後に試用期間を設け、適性が合わなければ早期に雇用を打ち切るという考え方は、育成就労制度の方向性と必ずしも整合しないと考えられます。制度上の明確な禁止規定がない場合であっても、受入れ計画や育成計画との整合性には十分な注意が必要です。
海外からの受入れに試用期間を設ける際の実務上の課題
外国人材が海外から新たに渡航してくるケースでは、試用期間の設定そのものが実務上現実的でない場合もあります。
- 在留資格申請や各種手続きに多くの時間と労力がかかる
- 渡航費用や初期生活支援など、企業側の初期負担が大きい
- 不採用となった場合、帰国費用や関係機関との調整が必要になる
こうした事情から、先行する他分野においても、試用期間付きで外国人材を採用する例は多くありません。形式的に試用期間を設けるよりも、採用前の人材選定や面接、業務内容の丁寧な説明を重視する方が、実務上は合理的といえるでしょう。
企業が意識すべき実務的ポイント
外国人ドライバーの受入れにおいて重要なのは、試用期間の有無そのものではなく、雇用開始後のフォロー体制です。業務内容や評価基準を明確にし、日本人ドライバーと同様、あるいはそれ以上に丁寧な指導やサポートを行うことが、定着と戦力化につながります。
特定技能や育成就労の制度を正しく理解し、自社の受入れ体制に合った雇用設計を行うことが、外国人雇用を成功させるための重要なポイントです。
まとめ
自動車運送業分野における外国人雇用では、特定技能1号については試用期間を設けること自体は可能ですが、試用期間中であっても労働契約は成立しており、労働関係法令や均等待遇の原則が適用されます。一方、育成就労については、制度の趣旨を踏まえると、短期間で適否を判断する試用期間の設定には慎重な検討が必要です。
形式的に試用期間を設けるかどうかよりも、採用前の人材選定や、受入れ後の教育・支援体制をどのように整えるかが、外国人ドライバーの定着と安定的な雇用につながります。制度理解と実務対応の両立を意識した雇用管理を行うことが重要といえるでしょう。

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